Reach Out to Ecology

ひとりでも多くの人に、手の届くエコを。

便利でもない。不便でもない。

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先日、Twitterでこんな投稿をした。

自分の中でもやんとしている何某かを、すべてではないにせよ言語化できたようなこういう呟きの後は、ちょっと視界がクリアになるように思えて、気分がいい。
その後も、ここから広がった物思いがなんとなーく続いていて。

あまり意識していなかったけれど、私はずっと、「便利さ」に対する疑問を抱えつづけていたのかもなぁ。と、思った。


便利の対義語は不便です。言葉の上ではね。
でも、現実のものごとは、「便利」と「不便」のふたつだけでは括りきれない。
便利でもないけれど、特段不便とも感じない。
不便ではないけれど、とりたてて便利というわけでもない。
そういう事柄は山とある。

フラットに考えれば、便利の反対は不便ではなくて「便利じゃない」、だし、不便の反対は「不便じゃない」でしかない。
そういう、「便利」と「不便」との間に広々と横たわる地平。便利でも不便でもない、「必要十分」というあたりまえが、日々の生活をしずかに支えてくれている、一番大事な土台なんじゃないかと思う。

便利さはいいものだ。
週に何回か電車を使う私は、リール付きのパスケースが大好きだ。
トートバックの持ち手にストラップで吊るしておけば、引っ張るだけで簡単にカバンの中から取り出せて、みょーんとリールを伸ばしてピッ! と軽やかに改札を通過できる。
カバンの中をゴソゴソ探って、人の流れをよどませることないし、どこかに落としてしまう心配もない。
まさに、便利。
私が困っていた不便さを解消して、色んな煩わしさを取り去ってくれた機能性の塊。(しかもオシャレなんだぞ)

こういう、自分のニーズにぴたっと合った便利さは、生活を身軽にしてくれるし、使う度に小さな喜びを与えてもくれる。
でも別に、日常のすべてが便利さで埋め尽くされる必要もないはずだ。

それがいいものだと言われると、私たちはつい、多く持っていればいるほど、いいような気がしてしまう。

自動販売機やコンビニは、多いほどいい。
お店の営業時間は、長いほどいい。
バイキングの食事やスイーツは、種類も量も豊富なほどいい。
キッチンの便利グッズは、たくさんあるほどいい。
おまけやサービス品は、貰えるだけ貰った方がいい。

目の前に広げられた「いいもの」たちは、「わぁ、すごい!」と、一瞬は気分を高揚させてくれるのかもしれない。
でも、実際に手に取って使うものは、そのうちいくつあるのだろう?
最初から目の前になかったとして、自分から「ほしいな」と思い浮かべるものは、どれほどあるのだろう?

どれだけ多くを与えられても、ひとつのからだで、一回きりの人生で、享受できるものには限りがある。
それなのに、いまの時代をただ生きていると、周りはあっという間に「使う宛てはないけれど、いつか使うかもしれないから、何となく手放せずにいる『便利そうなもの』」であふれかえってしまう。
そういう、薄利多売の便利さを抱え込み過ぎて、余白を埋め尽くされたような窮屈さが、私は苦しかった。

「これは、本当に自分がほしかったものだろうか?」

何が本当に必要なのかもわからない、もどかしさの中で、与えられた便利さを削ぎ落として、削ぎ落として。
不便さギリギリ、あるいは、あえて不便を感じるくらいまで無駄を薙ぎ払ってみて、自分にとっての「必要十分」を、自分の五感で、こころで改めて見定めてみる。

そうやって得られる身軽さ。

私は、お仕着せの「便利さ」を脱ぎ捨てた後の、そんな呼吸の清々しさに救われて、「ミニマリズムっていいな」と、いまの暮らし方を選んだ。

そして今やっと、自分の周りから径を広げて、自分をくるむ環境にも、少しだけ思いを至らせられるようになってきた。
これまで、便利さとのトレードオフで浪費してきてしまったリソースを、改めて見つめ直す視野を得て。
かつて踏み荒らしてきた地平に苦い痛みを感じながら、せめてこれからは、と、足元の草花を避けるように、よろめきながらの危なっかしい一歩一歩を今、踏んでいる。


分からないことは多いし、悩みは深い。
それでも、便利さに囲まれていたあの頃より、自分がほしいと思えるものをじっくりと見極めているいまの方が、ずっと自由だ。

ミニマリズムやゼロ・ウェイストは多分、「与えられる側」だった自分を抜け出して、「選び取る側」になるための、実践哲学でもあるんだ、と。
少なくとも、私自身にとってはそういうものだったのだと。
ようやっと、思索に理解が追いついてきた、今日この頃なのでした。


■おすすめしてもらった本

さよなら未来――エディターズ・クロニクル 2010-2017

冒頭のつぶやきをきっかけに、フォロイーさんから教えていただいた本。
WIRED元編集長の若林恵の綴ってきた文章を集めたものなのだけれど……いや、予想以上によかったです。
よかったっていうか、まだ読んでる最中だから、現在進行形で良い良い。なんだけど。
テクノロジーや利便性と未来とを安易に結びつけてはしゃいでいる、おめでたき日本への、批判的でありながら諦念を含んだ目線に、自分の現在地を照らしてあれこれ考えるのはもちろん。
明快で機知に富んだ文章は、それそのものが読み心地が良くて面白いし、実に幅広い意味での「カルチャー」に触手を伸ばす内容は、どれをとっても想像力を刺激する。
最初は「分厚い!」と思ったけれど、今は毎晩1話ずつ読み進みながら、読み終わりたくないな、と思っています。