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【減らそう使い捨て!】「紙ならエコ」は本当か?

こんにちは、むるまです。
2022年もよろしくお願い致します。

さて、皆さんは、年賀状は出されましたか?
わたしは毎年、枚数は少ないながら、親しい人と年賀状のやり取りをしています。
LINEやメールでの交流が主になっても、やっぱり手紙や葉書は出すのも貰うのも嬉しいもの。
そんなとき、紙っていいなぁ、と思います。

電子書籍も持っているけれど、やっぱり紙の本が好きだし、
考え事も落書きも、パソコンやスマホを使うより、裏紙に書き出した方がうんと伸び伸び考えが広がる感じがするし、
紙のブックカバーや紙箱も、お気に入りのものはずっと大切に使っているし。

けれど、いや、だからこそでしょうか。
「環境に配慮しています」という謳い文句のもと、プラスチックからの置き換えで、やたらめったら紙が消費されている現状に、随分前から違和感を覚えています。

「紙ならばエコ」は本当なのか?
本当に環境に配慮した紙との付き合い方は、どんなものなのか?
今回は、わたしなりに調べてみたことを元に、あれこれ考えてみたいと思います。

紙とプラスチック(と布)を比較してみよう

さて、プラスチックからの置き換えで紙が使われるケースが増えてきた今日この頃。
本当に紙なら、プラスチックよりエコなのでしょうか?

調べていて、こちらのアイルランドの論文を見つけました。
発行は2011年とちょっと古いですが、参考になる部分も多そうなので以下、大まかな内容についてご紹介してみようと思います。
Kirsty Bell and Suzie Cave "Comparison of Environmental Impact of Plastic, Paper and Cloth Bags"

製造・運搬に係るCO2排出と環境負荷

ここでは、レジ袋と、紙袋・布袋についての比較がなされていました。

ビニル袋の製造過程では、数トンのCO2やメタン、有害化学物質が排出されます。
しかし、紙袋の製造には、それ以上の環境負荷がかかるとのことでした。
具体的には、紙袋製造時のエネルギー需要・水の消費量は、ビニル袋の4倍以上
また、バージンパルプを作るため、加圧した木材チップを薬液に浸し高温加熱する過程では、有害な化学物質の使用に伴う大気・水質汚染のリスクがあります。
更に配送では、紙袋はレジ袋に比して重く、嵩張るため、紙袋の輸送には同数のビニル袋の7倍の輸送車を要するとのこと。

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温暖化係数から見ると、紙袋は4回の使用、布袋は171回の使用で、ビニル袋1回使用のCO2排出を下回ることができるとのことでした。

そしてそもそもプラスチックは、石油や天然ガスを精製する過程で出る廃棄物からできる副産物です。
将来的に脱石油燃料の流れが進めばまた事情が変わってくるかもしれませんが、現状、多くの産業が石油資源に依存している本邦においては、資源の有効活用、という見方もできるかもしれません。

リサイクルにおける諸々

また、1ポンドのプラスチックをリサイクルするのに要するエネルギーは、同量の紙をリサイクルするのに要する1/10程度とのこと。

再生プラを1トン製造するのは、バージンプラスチックの製造に比して

  • エネルギー消費 2/3倍
  • 水の使用 1/10倍
  • CO2排出量 1/5倍

で、1.8tの石油の節約につながるとのことでした。

焼却におけるCO2排出量

なお、上記の論文では、埋め立てによる処分を前提としていたので、焼却に伴うCO2排出については、国内の資料を探してみました。
廃棄物分野における排出量の算定方法について(廃棄物分科会)

これによると、プラスチックのCO2排出量はおおよそ 2.7kgCO2/t(プラスチック1トンあたり2.7kgのCO2排出、サーマルリサイクルを考慮)

これに対し、紙のCO2排出量を主成分のセルロースから概算すると、
紙1kgあたり約0.44kgの炭素を含有→ 1.63kgのCO2を排出、となり
CO2排出量はおよそ1,600kgCO2/t
実際の紙には水分や糊などセルロース以外の成分も含まれるため、もっと値は小さくなると思われますが、プラスチックとは大きく桁が違うことがわかります。
(後述の資料の数字から計算すると、輸送負荷を含めて1,200kgCO2/t程度なので、やはり実際はもっと小さい値になりそうです)

もっとも、紙のCO2排出は、原料である木がそれまで吸収したCO2と相殺できるため、紙の消却時に排出されるCO2は実質無視できるとの考え方もあります
しかしこれは、森林の伐採と成長が、無理のないサイクルに収まっていてはじめて成り立つ考え方です。

現在、脱プラの流れに伴うバージンパルプの需要増に伴い、世界的に木材が高騰しています。
これは、それだけ多くの木が切り出されているということでもあります。
一般に、新しく植えた木のCO2収支が吸収に傾くまでには、30年の年月を要すると言われています
植林した木がCO2削減に寄与し始めるまでにはそれだけの時間がかかりますし、また、植林した木のすべてがそこまで問題なく成長できるわけでもありません。 
(このへんは、カーボンオフセットについての議論でも近年問題になっているポイントです)
木材の需要が増えて森林が減っていってしまえば、その森林が将来担っていてくれたかもしれないCO2吸収の機能を失うことになる、と言う点は、常に忘れていけない事実だと思います。

それでもプラスチックは脅威

しかしわたしは決して、プラスチックの方が紙よりも環境にやさしい。
これまで通りどんどんプラスチックを使えばいい。
などと言うつもりはありません。

プラスチックの分解には、おおよそ400〜1000年の歳月がかかると言われています。
深刻な海洋汚染や、生態系に与える影響も、多くの人が知るとこととなっています。
マイクロプラスチックの健康被害については、まだ何もわかっていないという怖さもあります。

こうした危機について、『ニューロマンサー』などの名作で知られるSF作家、ウィリアム・ギブソンは、「20世紀に発明された最も破壊的なテクノロジーは核兵器だと思っていたけれど、実際はプラスチックの発明こそが地球を回復不能なまでに破壊している」と表現しました。

紙が発明されたのは紀元前2世紀。
大量に消費されるようになったのは、活版印刷が盛んになった15世紀頃でしょう。
対して、プラスチックの発明は20世紀初頭、大量消費のきっかけとなったのは第二次大戦です。
それからほんの70年余りで、プラスチックが世界的な危機をもたらしていることを考えれば、なるほど、ギブソンの言葉にも大いに頷くところです。

紙の魅力はリサイクルのしやすさ

そして、紙にはやはり紙の良さがあります。
それは何といっても、しっかりとリサイクルされているという安心感

プラスチックのリサイクルは、まだまだ課題が山積しています。
国家間でのプラごみの押し付け合いや、未処理のプラごみの環境流出。
その多くがサーマルリサイクルに回されてしまっている本邦の現状。
それに比して、紙のリサイクルには歴史があり、循環のシステムが確立されています。

以前は紙のリサイクルについて、「再生紙の方が新品の紙の2倍のCO2を排出する」と言われていたこともあるようですが、実際には、再生紙のCO2排出量が新品の紙の2倍になるのは、水に溶かした紙からインクなどを溶かし落とす工程のみ。
トータルのCO2排出量は、新品の紙と同等以下です。
つまり、「古紙のリサイクルは実は環境に悪い」ではなく、「古紙を漂白して新品同様の紙を作ろうとするのは環境に悪い」というのが、正しいところのようです。

そして、1000mLの紙パック1枚(約30g)の処分に伴うCO2排出は、

  • 焼却の場合(運搬・処分etc) 38.1g
  • リサイクルの場合(収集・運搬・再生パルプ製造etc) 14.7g

と、リサイクルすることで23.4g削減(約1/3)されます。
また、古紙を最大限活用すれば、森林消費は約1/4に減らせます。

NP-PAKism Vol.9: これだけ減らせるCO2!
国際連合大学 安井圭:紙のリサイクルを考える

こうしたことを考え合わせると、雑紙などのリサイクルに回せるものに紙を使用したり、再生紙を活用したりすることには、一定のメリットがあるのではないかと思います。

紙リサイクルは禁忌品に注意!

しかし注意が必要なのは、紙にはリサイクルに適さない禁忌品があるということ。
汚れや匂いが付着した紙。
粘着剤がついていたりシール加工が施されたもの、プラコーティングがされたもの。
感熱紙などの特殊な紙は、リサイクルすることができません。

つまり、現在プラから紙への置き換えが盛んな、食品パッケージやストローなどの多くは、リサイクルには不向きということ。
こうしたものについては、汚れを洗って落とせるプラスチックの方が、資源の有効活用やリサイクルの面でも、廃棄時のCO2排出の面でも、製造・輸送にかかるコストの面でも有利な場合もあるかもしれません。
(しかしストローはその形状ゆえ、環境流出しやすいというリスクがあるので、麦わらストローとか、ステンレスストローのリユースがいいのかもなぁ。なんてことを個人的には思います。)

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大事なのは使い捨てそのものを減らすこと

以上、長々とお付き合いいただいてしまいましたが、いかがだったでしょうか。
今回取り上げた論文は、10年以上前の他国のものですので、このデータをそのまま現在の日本に当てはめて考えるのは控える必要があるかと思います。
しかし、プラ製でも紙製でも、一回使って捨ててしまうのが決して環境に優しくないことは、確かだと言えます。

「紙製だからOK」と思考停止してしまうのではなく、
「これは再生紙かな? 新品の紙かな?」
「どれくらいリユースできるだろう?」
「リサイクルには回せるかな?」
「そもそも、似たようなものをパッケージフリーで手に入れることはできないかな?」 といったことを、あれこれ考えてみる。

今回の記事は、明確な正解を示すというより、上記のような考え事の参考にしてもらえればと思って、まとめてみました。
少しでも何かのきっかけになれば、幸いです。