レス・ウェイスト・ゲーム

ゴミと無駄を減らして身軽に自由に。ものぐさライフログ。

アイスランドで考えた① 気候と食とに関するあれこれ

さてさて、ご無沙汰しています。
相変わらず公私ともに色々なことがあって、色々なことを考える中で、書きかけの記事ばかりが積もっていく今日この頃。

何はともあれ私は今、極北の地、アイスランドに来ています。(もう帰るけどね)

「飛び恥」なんて言葉があるのは承知の上で。
それでもずっと以前から訪れたいと、事あるごとにスケジュールと睨めっこして。
今を逃せばいつ巡ってくるかわからない、千載一遇のチャンスが訪れたのが正に今。
ハイシーズンの夏ではなく冬に、というのも、アイスランドについて知った最初から望んでいたことでした。

時折乾くように、敢えて自然の厳しさにふれるような旅をしたいと思うことがあります。
それはたぶん、私のどこかで「生きていることは当たり前ではない」 と確かめたくなる気持ちが生まれることがあるからなのかもしれません。

アイスランドに向かう飛行機の中で、友人に勧めてもらった漫画を読んでいました。
物語の舞台はアイスランド。
両親を亡くし、アイスランドに住む祖父の下に身を寄せる主人公の男の子は、一人で探偵業をしながら、色々な人の人生と出会います。
そんな中、日本から訪れた親友を、アイスランドのあちこちに連れて行ってあげる流れの中で、観光地に整備された木の歩道や柵について語られるシーンがありました。
一緒に来ていた主人公の祖父が、観光客の増加に伴い整備された心ばかりの柵や道が、決して頑強なものではないことについて言及して、こう続けます。

「人の命を守るのは柵じゃない 人の判断力だと 厳しい土地に生きる者は知っている」
「彼らはこの地に育つ植物が どれほど極限で生きて 人間を生かしているか 子供の頃から教えられて育つから 自然を損なうことを嫌うんだ」

別のシーンでは、地球の割れ目を前に、主人公がこんなことを言います。
「自然の力が強すぎて 生命が歓迎されてない」
「賢くないと」
「知恵で 生命が許される隙間をこじ開けないと」

ストーリーはそこそこやんちゃなのに、美しい景色と、登場人物たちの心のやり取りが、静かに胸の底に落ちていくような。
不思議な手触りの作品でした。

北北西に曇と往け 2巻 (HARTA COMIX)

その空気に浸りながら、ああ、そうだ。 そういう土地だと感じたから、私はアイスランドに向かっているんだ、と。
まだ辿り着きもしないうちから、そんな旅愁に駆られたりして。笑

この漫画の中でも、頻繁に肉を食べるシーンが出てくるのですが、これに関する言及にも、アイスランドを旅先に選んだときからぼんやりと考えていたことを、改めて納得するような気分がありました。

中学生の時。
『肉食の思想』という本で、農作に適さない痩せた土地を持つ西欧の一部では、かつて、家畜はとても身近な食糧だったのだと知りました。
人が食べられる草木など育たない荒凉たる土地で、そこに自生するヒースやコケなどを食して育ってくれる家畜は、庶民にとって生命線ともいえる存在だった。
そうした地で主食と呼べるものがあるとすれば、それは小麦などではなく、肉なのだと。
だからこそ彼らの文化には、自分たちが他の命を屠ることを正当化してくれる、キリスト教の思想が必要だったのだと。
そんな視点から宗教や文化に切り込む本でした。

肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公新書 (92))

衝撃でした。
肉は贅沢品。野菜は粗食。
当たり前だと思っていたそんな価値観は、あくまで日本の、農作に適した恵まれた気候があってのものでした。
環境が変われば、物の価値は変わる。

実際、アイスランドの野菜は高かったです。
ダウンタウンのスーパーを覗いてみても、キウイが1個599isk、パプリカが1個1,099iskなんて恐ろしい値段を見て、一瞬計算ができなくなったり。(1iskは1円より少し安いくらい)
全体的に物価が高いアイスランドですが、隣に並んでいた腸詰のパックが500isk程度だったり、昨日の晩に私がレストランで食べたラムチョップが1,620iskだったことを考えると、やはり相対的な野菜の高さを実感せざるを得ませんでした。
アイスランド国内で生産できる野菜は、一部地域で作られているジャガイモやキャベツ、最近のハイテクの進歩で温室栽培されるようになったトマトなど、限られた種類のもので、あとは輸入に依存しているそうです。

考えてみると、日本で私が当たり前に享受している温暖湿潤な気候って、地球上で本当に限られた地域のものなんですよね。
嵐や地震の恐怖はあるけれど、私たちの土地にはこじ開けるまでもなく、生命が許される隙間が与えられている。
刈っても刈っても草が生い茂ってくる、草むしりが必要なくらいに緑が生命力に溢れているのは、決して当たり前じゃない。
少なくとも、溶岩石に覆われたアイスランドでは、野の草花は一度損なわれてしまえば、蘇るのに百年単位の時間を要する。

スナイフェルスネスへの道中で、溶岩台地を覆う苔や灌木を眺めながら、「ここには何か動物は棲んでますか?」と聞いたとき、ガイドのおじさんはチラッと私を見て一言
"Nothing."
と返しました。
アイスランドの多くは、そういう土地で覆われている。
土のない、溶岩石の島。

環境のために肉食をやめよう、という議論の中で、
「人はもともと肉を食べてきた」「日本人はもともとそんなに肉を食べていなかっただろう」
そんな「もともと論」の応酬を目にすることがあります。
そうしたとき、個人的にはいつも「食文化は、そんな大きな主語で語れる問題ではないはずでは?」という思いが強く湧いてきて、どちらの意見にも素直に肯けない自分を見つけます。

何が手に入れやすくて、何が贅沢かなんて、ところにより、状況により、全く変わってきます。
何が一番環境負荷が小さいかも、同じこと。
例えばアイスランドの人たちから、羊や豊富な魚介類をすべて取り上げて、温室栽培の野菜や輸入品のみで、彼らの胃袋を賄うことが果たしてできるのか。
その際の環境負荷は、 元より小さいといえるのか。
家畜の環境負荷で取り沙汰されるのは、基本的にはたくさんの水と飼料を必要とする点が大きくウェイトを占めていると理解しています。
では、自然のハーブや苔を食べ、野山を駆け回り湧き水を飲んで育つアイスランディック・シープに、同じ理屈が当てはまるのか?
(この疑問に答えを出すには、現状私には圧倒的に知識が足りませんが)

私は自分自身の生活においては、現時点で、動物性食品の摂取を避けるのがベストな選択だと思っています。
けれどそれとは別に、基本的にはこの世の中に、すべてに例外なく正しい理屈なんて存在しないんじゃないかな、という思いもあります。
自分にとっての最良を、他の人にそのまま当て嵌めることはできないと、そう感じているんです。

もちろんこんな話には、人が生きられないそんな厳しい土地に勝手に住みついたのは彼らだろう、という見方もあるのかもしれません。
でもそれは、人類が登場した時から繰り返されてきたことです。
言い出せば、私たちは誰もが皆、多かれ少なかれ同罪なのではないかしら。

肉を食べている。魚を食べている。
問題は、その行為そのものというよりも、それらが資本主義的な大量生産・大量消費の文脈に取り込まれた結果、環境や動物たちに過剰な負荷を強いてしまっていることにあるのだと思います。
自分たちを取り囲む自然環境と共生し、その恵みを分けてもらう生き方から、大きく外れている。そういう生き方に、私たちは違和感や危機感を抱いているのだと思います。


最後に、誤解のないように言っておくと、アイスランドの人たちは、決してヴィーガンには否定的ではないと感じました。
スーパーでもレストランでも、多くの店でヴィーガン表示のある商品やメニューが用意されています。
私が参加したツアーのガイドのおじさん(そこそこの年齢の方、2人にお世話になりました)も、私が「普段は極力ヴィーガンに近い食事をしているんです」と話したら、肯定的に受け止めて、ヴィーガンメニューの美味しいお店を教えてくれたりしました。
話には聞いていたけれど本当に、文化や価値観の多様性にオープンな国です。
まぁ、この国でヴィーガンやっていくのはだいぶお財布には厳しそうではあるのですが……汗

それにしても。
これだけ肉と魚介に胃袋を掴まれている国で、これだけヴィーガンが当たり前に認知され定着しているのを目の当たりにすると、日本ってこの点ではホント遅れてるよね、と改めてしみじみしちゃいました。
まぁ、これからに期待、かな?

●追記
その後、立ち寄った本屋さんで、ヴィーガンやベジタリアン関係の本がずらりと並んでいるのに遭遇しましたとさ。
ハンバーガーの本やステーキの美味しい焼き方の本と仲良く並んでいたのには、何だか笑ってしまった。
見方によっては無神経とも言えるのかもしれないけれど、私にとっては、全く違う考え方・生き方の人が、いがみ合わずに共存できていることの縮図のように思えて、少しほっとする光景でした。
そしてやっぱり、環境的なリソースとしてはずっとヴィーガンに取り組みやすいはずの日本より、ここの方が知識や意識の面ではずっと選択の幅があるんだなぁ。と感じ、複雑な思いを抱いた次第。
やれやれ。


■アイスランド・ガイド

大自然とカラフルな街 アイスランドへ 最新版 (旅のヒントBOOK)

アイスランドに興味を持つきっかけになった本。
ガイドブックなんだけど、現地在住の方が書いていることもあって、現地の生活に寄り添った視点が魅力。
歴史や自然、政治や社会的な価値観、国民の環境意識や現在直面している問題など、ささやかに散りばめられたエッセンスは、どれも短い文章ながら考えさせられるものがある。
そしてどのページを捲っても、自然や街や人の営みの美しい写真が並んでいて、見ているだけで旅するような気持ちになれる。
この本は、帰ってからも何度も見返すんだろうなぁ。

……しかし、発刊が2018年12月とやや古いので、掲載のお店の中には残念ながら閉業されているところもありました。
というわけで、純粋なガイドブックとしては下の方が良いかも。


11 地球の歩き方 Plat アイスランド (地球の歩き方Plat)

安定・信頼の地球の歩き方 主要な観光スポットの見所も地理とセットでコンパクトにまとまっていて、とても使い勝手がいいです。
サイズも上の本より一回りコンパクトなので、携帯にも便利。
交通、通貨などの基本情報も地球の歩き方らしいリファレンスの良さでさすが。
初心者に心強い一冊でした。

でもやっぱり上の本が好きで、結局旅には両方持って行きました。重い。笑